桜の見頃も終わる四月半ばの今宮神社のやすらい祭は、緋色の幕をぐるりに垂らした風流傘を先頭に赤と黒の長いつけ毛と緋色の長い羽織を着た少年らが股を広げた腰構えで跳ねるように舞うのが独特であるが、この風流傘を思わせる「人気笠」が、大和大路通を挟んだ東山建仁寺の惣門のはす向かいにある恵比須神社のゑびす祭で売られている。「人気笠」は麦わらで作った車輪のような輪の回りに風流傘と同じ緋色の布を垂らしたもので、吉兆笹と同じように縁起物の熊手や俵や千両箱を下げてもらうのであるが、「人気大よ世(にんきおおよせ)」と書いた黄色い紙をひと際大きくぶら下げ、それを見上げて読めば、時代をのぼった商人(あきんど)の心に触ったような気分になる。ゑびす祭は八日九日が宵ゑびす、十日が十日ゑびす、十一日十二日がのこり福である。四条通から頭上に渡した案内を潜れば、大和大路通の両側に喰い物の露店がずらりと並び、どこの祭りでも見掛けるような焼き鳥、たい焼、たこ焼、いか焼、焼きトウモロコシ、焼きそば、大判焼、綿あめ、りんご飴、フルーツ飴、べっこう飴、どんぐり飴、バナナチョコ、ベビーカステラ干し柿、肉まん、フランクフルト、牛すじ煮込み、ホルモン焼、どて焼、甘酒の匂いが漂う人混みの流れに行きつ遅れつ漸(ようや)く恵比須神社の鳥居に辿り着く。境内に浮かぶ人波のあちこちで吉兆笹が揺れている。長い列の先を見れば、鉦笛太鼓の音に合わせ繰る繰ると二度三度巫女が舞い、目の前の棚に載せた青笹の枝を一本一本祓っている。笹に縁起物を下げて貰ったら寄り道せずに帰るのが云い習わしであるという。途中で金を遣うと福が落ちるというのである。通りの隅でしゃがみながら二三人でものを喰っている者らで吉兆笹を抱えている者は見掛けない。この云い習わしに従って笹を手に入れる前に金を遣って喰っているのかもしれぬ。が、その者らの一見した見掛けは商人(あきんど)からはほど遠い、吉兆笹には目もくれぬ「愛すべき」者らである。「愛すべき」者らと云ったのは、この者らはたとえば「ダチ」仲間や小さい子どもを抱えた家族で、その背を丸めて買い喰いをする姿が時に切なく、いとおしく思えるからである。福笹をかつげば肩に小判かな 山口青邨

 「母、夕飯を運び来る。験温器を検するに卅七度五分なり。膳の上を見わたすに、粥と汁と芋と鮭の酪乾少しと。温き飯の外は粥を喰ふが例なり。汁は「すまし」にて椎茸と蕪菜の上に卵を一つ落としあり。菜は好きなれどこの種の卵は好まず。」(「明治卅三年十月十五日記事」正岡子規『飯待つ間』岩波文庫1985年)

 「第1原発1号機、1月12日から格納容器調査 水中ロボット使用」(令和4年1月7日 福島民友ニュース・みんゆうNet掲載)