2014-09-01から1ヶ月間の記事一覧

演出家佐々木昭一郎が二十年振りに作品を発表した。『ミンヨン 倍音の法則』という映画である。映画の監督は初めてであるという。二十年の間、佐々木昭一郎は作品を発表しなかった。「留守と言へ」ということだったのか。二十年経ったら帰って来る。1976…

嵐電北野線の始発駅北野白梅町から、帷子ノ辻行に乗る。平日の正午前、単線一両編成の電車の乗客は他に年寄りが二人。降りる駅は二つ目の龍安寺。歩いても造作のない距離である。電車が動き出す。風景が動き出す。行く先が分かっていても、どこかに連れて行…

三条大橋を東に渡り、東山三条交差点を過ぎると間もなく、白川の橋の上に出る。橋の名前は白川橋である。橋の東詰に、道標が立っている。その面に曰く、是よりひだり ちおんゐん ぎおん きよ水みち。別の面に曰く、京都為無案内人立之。これは蛇足である。さ…

大事なもんどこにしもうたか、わからんようになってしもた。市からもろうたお米券も出てこん。いらんもんほかすこともようできひんし。あん人大腿骨に針金三本入っとるんやて。リハビリいうたかて、痛うてかなわんいうてな。もうヘルパーさんが来るころや。…

ヴィム・ヴェンダースの映画『ベルリン・天使の詩』の主人公の中年男の天使が、人間に憧れて人間になり、サーカスのブランコ乗りの娘に恋をしたことで死ぬというところがつまらないと思った。天使が人間になり、永遠の命が永遠でなくなることはかまわない。…

毎年、年末の晦日か大晦日の日に鎌倉を歩いた。鎌倉駅を外れれば、人のすれ違いも稀なほど、鎌倉はしんとしていた。当てのないぶらぶら歩きを終えて東京に戻る前、その年の見納めに円覚寺の見晴し台に上がり、弁天茶屋で甘酒を飲み、大抵舌の先をやけどした…