2021-12-01から1ヶ月間の記事一覧

その日のちょうど正午近く西陣の外れにいると、西から東から消防車のサイレンが上がり、自転車の足を止めて聞けばそれはどちらもこちらに近づいて来る響きである。ほどなく南の方角からも聞こえて来る。五辻通(いつつじどおり)に何人か人が出ていて、通り…

九条東寺の講堂と食堂(じきどう)の間の空き地に、夜叉神堂という紅殻格子の二つの小堂が建っている。二つ建っているのは、夜叉に男と女があるからである。この日は弘法市の二十一日で、十二月は終(しま)弘法と呼ばれ境内中に露店が立ち、夜叉神堂の回り…

鹿ヶ谷(ししがだに)法然院の茅葺門の左手に、飛び石をその前に並べた茶庭の中門の様な小さな門があり、普段は閉ざされていて通りすがりの者がその門を潜ることは出来ないが、この門の内にあるのは金毛院という名の寺である。あでやかな紅葉もいまは落葉と…

枯芝にうしろ手ついて何も見ず 角川春樹。京都府立植物園には広い芝地があり、いまはすっかり枯れていて、踏んで歩めば靴底からその独特の感触と匂いが伝わって来る。枯芝のあまり広くてかなしけれ 波多野爽波。このような感慨は、たとえば観客席から見てい…