2016-10-01から1ヶ月間の記事一覧

花村萬月の小説『百万遍(ひゃくまんべん)』の中で、百万遍は知らない土地として出て来る。百万遍のある京都という街自体も主人公は知らない。「百万遍という言葉に反応して、とじていた目をひらいた。百万遍──。記憶の底にのこっている。地名だ。岩尾から…

野菊道数個の我の別れ行く 永田耕衣。自分、己(おの)れをそうであると意識するのは、同じ年頃の集まる中で初めて自分の名を呼ばれる保育園、幼稚園の時であろうか。その時の道は、その行き帰りの道であり、道草を覚える道であろうが、そのような子ども時代…

庇の下のベンチに腰を下ろしている小奇麗な身なりの老婦人に、顔の似た娘と思しき者が、「退屈してるの」と声を掛ける。堂を廻(めぐ)って祈る千度参りをさっきまでは二人でしていたのであるが、老婦人は途中で止め、庇の陰に入っていた。千度参りは、数え…

例えば、地下鉄烏丸御池駅から京都駅までは六分であり、京都駅から宇治駅までは奈良線快速で十九分、普通で二十七分であり、この電車の所要時間が平安時代に貴族の別業〔別荘〕があった宇治までの現在の距離である。宇治川に架かる宇治橋は、宇治駅から三分…