2015-12-01から1ヶ月間の記事一覧

詩仙堂の庵主石川丈山は、徳川幕府の間諜隠密であったかもしれない、と歴史学者中村直勝がその著書『京の魅力』(淡交新社1959年刊)に書いている。「(詩仙堂の二階の)窓は鷹峰の方にも開いて居るが、それよりも寧ろ、京都御所の森が指呼の間に見え、…

その者らは胴長靴を履き、池の底の泥の上で火を焚いている。その者らは三人で、その時折り話し掛ける様子から、掘立て小屋の陰にもう一人いるのであれば、四人である。池は嵯峨の広沢池で、胴長靴の男らは、四月に池に放って太らせた鯉を売っている。鯉はす…

「高瀬舟は京都の高瀬川を上下する小舟である。」ではじまる森鷗外の短編「高瀬舟」は、神澤杜口(貞幹)の『翁草』(安永五(1776)年刊)の「流人の話」を元にしていると、「高瀬舟」に附した「高瀬舟縁起」で鷗外は述べているが、その「高瀬舟縁起」…

「此の柿は京都伏見桃山に庵(いほり)を結んでゐる愚庵といふ禪僧から贈つて來た釣鐘といふ珍しい名の柿であつた。さういへば形がどこか釣鐘に似てゐた。此禪僧といふのは維新の戰亂に母と妹とが生死不明になつてしまつた其行方を何十年かの間探したが遂に…