2024-03-01から1ヶ月間の記事一覧

京を下に見るや祇園のゑひもせす 西山宗因。いろはにほへと ちりぬるを わかよたれそ つねならむ うゐのおくやま けふこえて あさきゆめみし ゑひもせす京、といろは歌の最後に京をつけて覚えていれば、この句の意味は他愛もない。折角祇園で呑んだのに少し…

生きるより死はなつかしく春彼岸 神蔵器。『今昔物語集』の巻第二十六、第二十二の「名僧、人の家に立寄りて殺さるる語(こと)」はこのような話である。「今は昔、京に生名僧(なまみやうぞう)して、人の請(しやう)を取りて行き、世を渡る僧有りけり。而…

「嵯峨お松明」は、五山の送り火、鞍馬の火祭りとをもって京都三大火祭りの一つとされている。頃は三月十五日、所は清凉寺、嵯峨釈迦堂境内である。江戸期にはその番号を振った提灯が意味を持ち籤(くじ)によって決まった並べる高さで米相場を予想したとい…

鴨川に架かる御池大橋の西詰、橋の袂の歩道の端に「春の川を隔てゝ男女哉」と刻んだ焦げ茶色のなだらかな山のような句碑がある。その前文に「木屋町の宿をとりて川向の御多佳さんに」とあり、木屋町三条上ルにあった北大嘉(きたのだいが)に宿を取ったのは…

雛の軸睫毛向けあひ妻子睡(ね)る 中村草田男。芭蕉の『奥の細道』は「月日は百代(はくたい)の過客(くわかく)にして、行かふ年も又旅人也。」と名調子ではじまり、この先も名調子はこのように続く。「舟の上に生涯をうかへ、馬の口とらへて老をむかふる…

上京の室町通鞍馬口下ル森之木町にある喫茶店の前に立つと「近衛家別邸御花畑屋敷跡。小松帯刀寓居跡」と記された町中(まちなか)で見慣れたそれらのものよりもよほど新しい標石が目に入る。喫茶店の壁に貼った案内を見れば2017年に建てたものである。…