めつむりてひげそられをり十二月 西東三鬼。倉本聰のテレビドラマ『前略おふくろ様』の第2シリーズの第十四回で元安藤組の俳優安藤昇が理髪店で髭を剃ってもらう場面がある。萩原健一扮する板前片島三郎は前の料亭「分田上」から「川波」に移っている。その日東京は電車が止まるほどの大雪が降る。昼「川波」で安藤昇が扮する土木会社の専務と銀行員との間である打ち合わせが持たれる。この日の夕、安藤昇は同じ「川波」で娘の結婚相手側との顔合わせが控えていた。打ち合わせを終え一旦「川波」を出た銀行員が、手帳を忘れたと云って一人戻って来て、八千草薫扮する女将に安藤昇の土木会社がこの日に倒産すると内緒で打ち明ける。そのことを傍らで耳にした板前の萩原健一が、板場に立つ前に理髪店の戸を開けて中に入り、髪を切り終えた安藤昇を目にする。床屋が安藤昇の座る椅子を倒し、顔に蒸しタオルを当て、髭をあたっていく。板前の萩原健一は倒産する会社の専務安藤昇の心の内を思うのである。そして夕方、安藤昇の家族と相手方の家族の揃った「川波」に遅れて着いた安藤昇が、女将の八千草薫に溜まっていた会社のツケを払って客間に入り、滞りなく顔合わせが終わっても、安藤昇一人が室に残る。そしてどうも様子がおかしいとなる。客間の電話がずっと話し中のままなのだ。不審に思った八千草薫が花板秀次に扮する梅宮辰夫に中の様子を確かめてもらう。すると、安藤昇は家族と会社に宛てた遺書を残し、睡眠薬で自殺を図っていたのだ。めつむりてひげそられをり十二月。この第2シリーズでは、萩原健一が扮する片島三郎の親戚桃井かおりが扮する海もある日、鳶の頭半妻に扮する室田日出男が酔って寝入った萩原健一の隣りの自分の部屋でガス自殺を図るのである。夜明け前に起きた室田日出男がガスの臭いに気づき起こした萩原健一と二人でドアを押し倒し部屋に飛び込んで桃井かおりを助け、そして命を取り留め目を覚ました海の病室に、川谷拓三が扮する鳶の利夫が見舞いに来る。川谷拓三は海に片思いをしていた。一言も返事をせず天井をじっと見つめている青白い顔の桃井かおりに川谷拓三は「今夜は外が冷えているんです」としみじみ云うのである。あるいは、こんな八千草薫のセリフも思い出す。安藤昇が自殺を図った同じその日に八千草薫木之内みどり扮する引き籠りの高校生の娘の許に担任が訪れ、退学を勧告する。八千草薫木之内みどりにこう声をかけて慰める、「高校なんか出なくたっていい女にはなれるんだから」。二度わたるどんぐり橋や十二月 星野麥丘人。団栗橋は鴨川に架かっている。四条大橋の一つ南に架かる橋である。この橋を西から渡ったすぐの右手に花街宮川町がある。作者は茶屋で舞妓芸妓をあげて遊び、寒風に酔顔を晒して夜の団栗橋を歩いて渡り宿へ帰ったのであろうか。欲しきもの買ひて淋しき十二月 野見山ひろみ。

 「川の傍に建った家に棲んでいたこともある。川には、朽ちかかった丸木橋が渡されてあった。川沿いの道は、長く白く埃っぽくつづいていた。その道を長い時間歩いて、写真館に写真を写してもらいに行った。その途中、狂人の男が長い竹竿を振りまわして暴れているのに行き遭ったことが思い出されてくる。」(「家屋について」吉行淳之介吉行淳之介短編全集』新潮社1965年)

 「福島第1原発の処理水、2月下旬に4回目放出へ」(令和5年12月19日 福島民友ニュース・みんゆうNet掲載)